第一章:明日は今日とは違う[ドラッカー理論の基本と読み方]
「はじめてのマーケティング」冒頭
一人の新卒女性社員にドラッカー理論の案内人になってもらいましょう。
名前は松下ひとみ。設立されて間もないITネットベンチャーに新卒就職し、研修を終えたばかりの今日、マーケティング部門への辞令が出たばかりです。
といっても、社長を含めて10名の会社なので、ひとみ以外にマーケティング部門に社員はいません。社長が上司です。
ひとみは、初めてもらった辞令を見ながら思いました。
(マーケティングかぁ……理系大学を出たばかりの私にできるのかしら)
教えてくれる先輩社員はいません。自分で一から覚えるしかなさそうです。
ひとみは、帰宅途中に書店に寄ると、山のように並んでいるビジネス書の中から、名前に聞き覚えのあるドラッカーの翻訳書を何冊か購入しました。
家に帰って、くつろぎながら「えーと、マーケティング、マーケティング……」と本をめくって、最初に目にとまった言葉は、
販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん。補い合う部分さえない。
(ええっ、これって、どういう意味なのかしら?)
ひとみは、首をかしげました。
世間一般では「販売」と「マーケティング」は、まだ同義語のように思われている場合も多いようです。
販売の最前線にいる営業マンの中にも、いまだに「マーケティングは商品を販売しやすくすることで、販促の延長みたいなものさ」と説明する人もいます。
「マーケティング」にそのようなイメージを持つ人からすると、「販売とマーケティングは逆である」「補い合う部分さえない」というのは、逆説的でハッとさせられるにちがいありません。さらに、
もちろん何らかの販売は必要である。だが、マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。
(販売を不要にするって……販売しなければ売上も利益もなくなるじゃないの!?)
ひとみは、何を言っているのかまったくわからないという思いになりました。
どのような企業も、製品やサービスなどの商品を販売し、売上をあげて利益を出すために運営するのが基本のきのはずです。「販売を不要にする」といわれたら、びっくりです。
しかし、さらに先へ読み進むと・・・・